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喝采
第1章 ミサ曲ロ短調
「なあ、大輔。俺、斉賀一臣の指揮は初めてなんだけど、どんな人だ?」
ここで会ったが百年目とばかり、谷田部は気になっていたことを訊ねた。今まで谷田部はバッハのような古楽にはあまり縁がなく、斉賀の指揮で歌うのも初めてだった。
「まあ、すぐにわかるよ。見たまんまの人だから。あ、別に悪い人じゃないよ」
加藤はやたらとニヤニヤしている。絶対に何かを隠している顔だった。
「それよりお前、意外と短気だから雫石さんと喧嘩しないかどうかの方が心配だよ」
「雫石?」
「うん。雫石玲音。うちとよく組むソリストだよ。歌はすごいんだけど、かなり気難しくてね。実は今回予定していたテノールと前の公演で喧嘩して、テノールが降りちゃったんだ」
「うへえ」
谷田部は天を仰いだ。今回、ソリストの依頼が随分と急な話だったのはそのせいか。ロ短調ミサはソリストの出番が少ないため、公演まで時間がなくともさしたる問題はなかったが。
「俺、その雫石ナントカと上手くやれる気がしねーんだけど」
「まあまあ、ソリスト同士頑張って仲良くしてください。実は俺たちと同い年らしいぜ」
「へえ?どこの出身だ?」
出身大学がわかれば校風から何となくその人となりがつかめるはずだ。また共通の知り合いでもいれば、なおさら話がしやすい。だが加藤の答えは谷田部のかすかな希望を打ち砕いた。
「海外じゃなかったかな? 確かウィーンだったはず」
「エリートかよ」
「まあ、本当に歌はすごいから。とりあえず公演終わるまでよろしくな」
「おう、そっちも頑張れよ」
二人は上手からステージに上がると、加藤は合唱団の席、谷田部はソリストの席にそれぞれ向かったのだった。
ここで会ったが百年目とばかり、谷田部は気になっていたことを訊ねた。今まで谷田部はバッハのような古楽にはあまり縁がなく、斉賀の指揮で歌うのも初めてだった。
「まあ、すぐにわかるよ。見たまんまの人だから。あ、別に悪い人じゃないよ」
加藤はやたらとニヤニヤしている。絶対に何かを隠している顔だった。
「それよりお前、意外と短気だから雫石さんと喧嘩しないかどうかの方が心配だよ」
「雫石?」
「うん。雫石玲音。うちとよく組むソリストだよ。歌はすごいんだけど、かなり気難しくてね。実は今回予定していたテノールと前の公演で喧嘩して、テノールが降りちゃったんだ」
「うへえ」
谷田部は天を仰いだ。今回、ソリストの依頼が随分と急な話だったのはそのせいか。ロ短調ミサはソリストの出番が少ないため、公演まで時間がなくともさしたる問題はなかったが。
「俺、その雫石ナントカと上手くやれる気がしねーんだけど」
「まあまあ、ソリスト同士頑張って仲良くしてください。実は俺たちと同い年らしいぜ」
「へえ?どこの出身だ?」
出身大学がわかれば校風から何となくその人となりがつかめるはずだ。また共通の知り合いでもいれば、なおさら話がしやすい。だが加藤の答えは谷田部のかすかな希望を打ち砕いた。
「海外じゃなかったかな? 確かウィーンだったはず」
「エリートかよ」
「まあ、本当に歌はすごいから。とりあえず公演終わるまでよろしくな」
「おう、そっちも頑張れよ」
二人は上手からステージに上がると、加藤は合唱団の席、谷田部はソリストの席にそれぞれ向かったのだった。