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喝采
第1章 ミサ曲ロ短調
 ステージではオーケストラがチューニングの真っ最中だった。
 今回のピッチは事前に聞いていた通りのA=420Hz。A=442Hzが主流の現代のオーケストラより約半音低い。また現在では古楽でしかほとんど見ることのない古い楽器も数多く使用されている。オーケストラのチューニングを聴いて、谷田部は改めて古楽のステージに立つことを実感したのだった。

 やがて開始時刻きっかりに、指揮者の斉賀がステージに現れた。指揮台に向かって早足で歩く斉賀を見て、谷田部は驚きに目を見開いた。ロマンスグレーの髪をきっちりと後ろで束ね、若い頃はさぞやモテただろうと思われるダンディーな顔立ち。だがその服装のセンスはかなり個性的で、どこかのデザイナーズブランドのものと思われる、奇抜なデザインの鮮やかな原色使いの服が異彩を放っている。似合っているのかいないのかすら、谷田部には判断できない。
 加藤の方を見ると、明らかに面白がっている顔で谷田部と目が合った。「すぐにわかる」と言っていたのはこのことだったらしい。
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