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喝采
第4章 ヨハネ受難曲
「お疲れ!」

 「ヨハネ受難曲」は成功のうちに幕を下ろした。カーテンコールを終え戻ってきた舞台袖で谷田部は雫石の肩を抱いた。そうすると小柄な雫石は大柄な谷田部に、すっぽりと隠れてしまう。

「お疲れ。……少し離れてくれないか。重い」
「悪い」

 谷田部が体を離すと、雫石はほっと息を吐いた。歌っているときには気づかなかったが、何となく調子は良くなさそうで、約束はしているものの、この後食事に誘っていいものか悩むところだ。

「今日は食事に付き合う約束だったな。何か食べたいものがあるのか?」
「いや、特に。玲音の食べたい物にしようかと思ってた。なんだか調子悪そうだけど大丈夫か?」
「気にするな。僕は何でも構わない。昨日は斉賀さんと何を食べた?」

 昨日谷田部は、雫石の目の前で斉賀に誘拐されていた。

「フランス料理かな」
「……牛フィレ肉のロッシーニ風か」
「それだけでよくわかるな」
「僕も何度か付き合わされているから」
「なるほど」

 斉賀に引きずられたことがあるのは自分だけではないと聞いて、谷田部は安心した。斉賀のパワーに勝てる人間はそうそういない。雫石があの料理をどんな顔をして食べたのか、谷田部にはまるで想像できなかった。

「昨日がこってり系だったから今日はあっさりと和食とかどうかな。確か近くに懐石料理の店があったはずだ」
「わかった」
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