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喝采
第5章 聖母マリアの夕べの祈り
『出演者の名前にはちゃんと玲音の名前も載ってるよ。詳しく調べなかった谷田部っちの手落ちだね。玲音の歌を聴きたいなら、自分で調べなきゃ。誰かに自分の公演を聴きに来てもらうなんて、玲音はこれっぽっちだって考えてないからね』
「俺のときはわざわざヨーロッパから聴きにきてくれたのにですか?」

 わずか二時間の公演を聴くためだけために、雫石がヨーロッパから半日だけ一時帰国したことは、斉賀も知っている。

『ウン。友達の谷田部っちのことはとても大事にするけど、玲音にとって自分の歌は、他人にわざわざ知らせるに値しないものなんだ。何せ実の家族ですら玲音の歌を聴きに来ようとはしないから。玲音の両親が息子の出演した公演を聴きに来たことは、今まで一度もない。だから誰かが自分の歌を聴いてくれる事の喜びを、玲音にも知ってほしいんだ』

 雫石は谷田部が思う以上に孤独だった。「ヨハネ受難曲」の公演後、雫石に家族を紹介したとき一体どんな気持ちで谷田部の家族に会っていたのだろう。

『それと玲音はね、カーテンコールで笑顔を見せたことがないんだよ。知ってた?』
「いいえ」
『僕はカーテンコールで玲音の笑顔が見たい。君と一緒なら、いつか玲音は笑顔を見せてくれるような気がする。ときどきキツいことも言うけど、本当の玲音は、とても優しくていい子なんだ。これからもどうか玲音と仲良くして欲しい』

 斉賀の口調からはおちゃらけた色は一掃され、心の底から雫石を案じていることが感じられた。

「もちろんです。チケットありがとうございました」

 谷田部は雫石にメールで、来月の東京公演を楽しみにしていることを伝えた。
 ややあって届いた雫石からの返信は「ありがとう」とたった一言だけだった。
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