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喝采
第5章 聖母マリアの夕べの祈り
 「聖母マリアの夕べの祈り」公演当日は東京でも気温が三十五度を超える、いわゆる「猛暑日」となった。汗だくになりつつ会場のオペラタウンに向かう。あまりの猛暑にTシャツに短パン、サンダル履きといきたかったが、さすがにコンサートには適さない。仕方なしに半袖Yシャツにスラックスというサラリーマンのようなスタイルを選択したが、到着するまでに予想通り汗だくになってしまった。汗だくのまま席に着くのもためらわれ、ベルが鳴るまでロビーで時間を潰してからチケットに書かれた座席に着いた。

 スポットライトを浴びながらステージにシュミットが姿を見せ、谷田部はステージに意識を集中させた。ステージにはもちろん雫石の姿もある。

 「聖母マリアの夕べの祈り」はモンテヴェルディの最高傑作だ。タイトル通りカトリックの晩課のための音楽で、非常に多くの声部に別れた合唱と、美しいが高い技巧が要求されるソロパートが聴きものだ。この作品は規模の割に独唱曲が非常に少なく、雫石の歌うアルトも合唱の中でソロやソリとして使われるのみだった。そして中盤、メリスマを駆使した華やかなテノール三重唱「二人のセラフィムが」は、名曲中の名曲として名高い。

 シュミットの作り出す音楽は斉賀の作る音楽とは性質を異にしていた。統制の取れた中にもどこか柔らかさの感じられる斉賀に対し、シュミットはどこまでも凛として冴え渡る。件の三重唱も、雲一つない晴天の中純白の翼を陽に輝かせながら天使が飛び交うかのようなクリアな歌唱だった。

 演奏を終え満場の聴衆からの拍手の中、ステージに立つ雫石と目が合った。雫石は広いホールでただ一点、谷田部だけを見つめていた。にこやかにカーテンコールに応じる指揮者とソリストたちの中で、斉賀の言葉通り、雫石だけがにこりともしていなかった。
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