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喝采
第6章 クリスマスオラトリオ
 二人並んでイルミネーション煌めくクリスマスイブの街を歩く。人ごみに足の悪い雫石が巻き込まれぬよう、さりげなく庇うことも忘れない。

「メシだメシ! で、何食う?」
「何でもいい。さっさと店に入ろう」

 雫石は明らかにうんざりとしていた。少し疲れているようにも見える。

「よし。じゃ、少し戻るぜ」

 谷田部は雫石の左腕を軽く引いた。雫石は立ち止まり、苛立たしげに眉を上げた。

「食べたいものがあるなら、最初からそこにすればいいだろう」
「お前が食いたいものにしようと思ってたからさ」
「僕は何でもいいと言ったはずだ」
「でもほら、とりあえずクリスマスイブだし」

 爽やかに笑って意味不明な釈明をすると、谷田部は先に立って歩き出した。
 谷田部が立ち止まったのはこの辺りでも珍しいオーストリア料理店の看板の前だった。

「……オーストリア料理?」
「そ。お前、ウィーン育ちだもんな。日本にいるとおふくろの味が食いたくなるんじゃねえのか?」
「僕の両親は日本人だ」
「そうだっけ?」
「ああ」
「ここでいいか?」
「構わない。僕としては拓人が腹減ったとうるさいから、とりあえず食べ物で口を封じたい」
「あっ、ひでえ。……ここ、階段しかないみたいだから気をつけろよ」

 店は雑居ビルの地下にあった。下に降りるエレベーターは見つからない。谷田部は雫石に手を貸すと、慎重に階段を降りた。
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