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喝采
第6章 クリスマスオラトリオ
席数は三十席くらいだろうか。店は満席に見えたがすぐに案内された。入口から見えない奥の方には、まだ数テーブルの空席があった。
「俺、オーストリア料理食ったことないんだけど、お前的には何がオススメだ?」
谷田部が訊ねると、雫石はテーブルに置かれていたメニューにざっと目を通した。
「定番料理が食べたいならこの『オススメコース』でいいんじゃないか?」
「じゃ、俺はそれに決まり。お前はどうする?」
「拓人と同じでいい」
「相変わらずだよなあ、玲音。少しは食い物にこだわれよ」
あっさりと決めてしまった雫石に、谷田部は大げさに溜め息を落としてみせた。雫石は実は食べ物にほとんど興味を示さない。一緒に食事をすると必ず谷田部と同じでいいと言うのだ。
「心外だ。僕だってたまには故郷の定番料理が食べたくなることもある」
「なら『同じでいい』じゃなくて『同じがいい』だろうが」
「どちらでも大した違いはない」
「いやいや、全然違うから。食い物もそうだけど、歌い手なら言葉にもこだわれよ」
雫石は無言で肩をすくめ、ため息をついた。カップルの多い浮わついたような店内で、雫石だけが暗く沈んで見えた。
「俺、オーストリア料理食ったことないんだけど、お前的には何がオススメだ?」
谷田部が訊ねると、雫石はテーブルに置かれていたメニューにざっと目を通した。
「定番料理が食べたいならこの『オススメコース』でいいんじゃないか?」
「じゃ、俺はそれに決まり。お前はどうする?」
「拓人と同じでいい」
「相変わらずだよなあ、玲音。少しは食い物にこだわれよ」
あっさりと決めてしまった雫石に、谷田部は大げさに溜め息を落としてみせた。雫石は実は食べ物にほとんど興味を示さない。一緒に食事をすると必ず谷田部と同じでいいと言うのだ。
「心外だ。僕だってたまには故郷の定番料理が食べたくなることもある」
「なら『同じでいい』じゃなくて『同じがいい』だろうが」
「どちらでも大した違いはない」
「いやいや、全然違うから。食い物もそうだけど、歌い手なら言葉にもこだわれよ」
雫石は無言で肩をすくめ、ため息をついた。カップルの多い浮わついたような店内で、雫石だけが暗く沈んで見えた。