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喝采
第6章 クリスマスオラトリオ
 料理店からホテルまでの帰路は、車を呼んだ。ワンメーターでたどり着けるような距離だが、先程から顔色のよくない雫石に無理をさせたくはなかった。

「顔色が悪いぜ。疲れてるんだろ? 先に風呂使えよ」
「僕は一度シャワーを浴びているから拓人が先でいい。別に疲れてる訳じゃない」
「じゃ、遠慮なく」

 先に風呂から上がった谷田部がベッドに転がっていると、バスローブ姿で戻ってきた雫石が向かい側のベッドに腰かけた。つい湯上がりの体に視線が行きそうになり、慌ててそらす。雫石は体を見られるのを非常に嫌い、今まで素肌を谷田部の前に晒したことがなかった。

「一つ聞かせてくれ」
「え?」

 雫石は谷田部のベッドに上がり、馬乗りになって谷田部を押し倒した。
両手首を掴まれ、身動きがとれない。下から雫石を見上げると、無機質な眼差しで谷田部を見下ろす雫石と視線がぶつかった。

「拓人は神を信じないと言った僕に『好きにすればいい』と言った」
「ああ、言った」
「僕は神を信じない。もちろん自分のことも信じない」

 雫石の感情の見えない瞳が間近から谷田部を射抜く。

「だから僕は拓人のことも信じない。それでもいいのか?」

 谷田部はあっけらかんと笑った。

「いいぜ」

 雫石が谷田部を信じないのは別にどうでもよかった。

「俺は玲音を信じる。お前が自分を信じないのなら、俺がお前の分までお前を信じるから、お前は好きにすればいい」
「どうして……。どうしてそんなことが簡単に言える?」

 雫石は声もなく、表情すら変えることなく落涙した。谷田部の体の上に落ちた透明な雫は、次々と滑り落ちてシーツを濡らした。

「さあ、どうしてだろうな。けど、俺は玲音がいいんだよ。玲音じゃなくちゃ、嫌なんだ」

 谷田部は腕を動かしてみた。掴まれた腕は簡単にほどける。逆に雫石の腕を掴んで引くと、雫石は谷田部の胸に倒れ込んだ。抵抗するかと思いきや、雫石はそのまま動かない。谷田部は長い腕を背に回し、強く抱き締めた。
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