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喝采
第6章 クリスマスオラトリオ
「拓人」
「ん? ああ、悪い」

 鋭く名を呼ばれ、谷田部は我に返った。ずいぶんと長い間、雫石を抱き締めていた気がする。谷田部が腕を離すと、雫石は自分のベッドに腰かけた。

「ようやく、自分の気持ちがわかった気がする。だから今、あのときの返事をしようと思う」

 静かな眼差しが、まっすぐに谷田部を見つめた。

 「あのときの返事」とは、以前雫石に告白したときの返事だろう。谷田部は断られることを覚悟していた。告白した後も雫石の態度は変わらずに素っ気なく、谷田部は雫石に嫌われることばかりしていたからだ。

「答えはヤーだ」
「そうだよな、やっぱ嫌だよな。ごめん」

 谷田部の予想通り、答えは「嫌」だった。雫石への特別な感情は封じ込め、友人として接していく覚悟はとうにできていた。雫石ならきっと、単なる友人として以前と変わらずに接してくれるはずだ。

「違う」

 だが雫石は首を振った。

「ドイツ語で『Ja』だ」

 谷田部は目を見開いた。雫石ほど堪能ではないとはいえ、歌で身を立てる者として、谷田部もある程度のドイツ語は学んでいた。

 ドイツ語でJaとは承諾の意味だ。

「もう一度聞くよ。本当に僕でいいのか?」
「何度でも答えてやるよ。俺はお前がいい。お前でなくちゃダメなんだ」

 再び雫石の瞳から涙が一筋、流れ落ちた。
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