この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
喝采
第1章 ミサ曲ロ短調
時間通りに始まったゲネラルプローベは滞りなく進んでいった。
「ちょっと休憩しようか。ちょうど玲音も来たしね」
斉賀の声に、オーケストラが楽器を置き、ほっと空気が和らぐ。
谷田部が隣を見ると、先程まで空席だったアルトの席に、小柄な男性が座っていた。いつ来たのか、集中していた谷田部は全く気づかなかった。
「お、男!?」
谷田部の頓狂なテノールが、ホール一杯に響きわたった。合唱とオーケストラの面々からクスクスと忍び笑いが聞こえる。
雫石は男性にしてはほっそりと華奢な体格で、しかも人形のように綺麗な顔立ちをしていた。だが決して女性ではない。アルトというからには、雫石は女性なのだとばかり思い込んでいたが、よく考えてみると「玲音」は男性の名前だった。
「君はバカなのか?」
そんな中、雫石のよく通る冷え冷えとした声が、谷田部に突き刺さった。ゆっくりと立ち上がった雫石は、声の印象と同じ冷たく凍りついた眼差しで、谷田部をまっすぐに見つめていた。
「んだと!?」
初対面の相手にいきなり「バカ」と言われ、谷田部はいきり立って雫石に詰め寄った。図らずも加藤が懸念した通りになってしまった。
間近で向かい合うと、二人の体格差は歴然としていた。長身でがっしり型の谷田部に対し、小柄で華奢な雫石。谷田部の力なら片手でも雫石を吹き飛ばせそうだ。これ以上何か言われていたら、谷田部は雫石に掴みかかっていたに違いない。ステージに残っていた他のメンバーは、固唾を飲んで二人のやり取りを見守っている。
だが、そこに場違いなまでにのんびりとした斉賀の声が割って入った。
「ちょっと休憩しようか。ちょうど玲音も来たしね」
斉賀の声に、オーケストラが楽器を置き、ほっと空気が和らぐ。
谷田部が隣を見ると、先程まで空席だったアルトの席に、小柄な男性が座っていた。いつ来たのか、集中していた谷田部は全く気づかなかった。
「お、男!?」
谷田部の頓狂なテノールが、ホール一杯に響きわたった。合唱とオーケストラの面々からクスクスと忍び笑いが聞こえる。
雫石は男性にしてはほっそりと華奢な体格で、しかも人形のように綺麗な顔立ちをしていた。だが決して女性ではない。アルトというからには、雫石は女性なのだとばかり思い込んでいたが、よく考えてみると「玲音」は男性の名前だった。
「君はバカなのか?」
そんな中、雫石のよく通る冷え冷えとした声が、谷田部に突き刺さった。ゆっくりと立ち上がった雫石は、声の印象と同じ冷たく凍りついた眼差しで、谷田部をまっすぐに見つめていた。
「んだと!?」
初対面の相手にいきなり「バカ」と言われ、谷田部はいきり立って雫石に詰め寄った。図らずも加藤が懸念した通りになってしまった。
間近で向かい合うと、二人の体格差は歴然としていた。長身でがっしり型の谷田部に対し、小柄で華奢な雫石。谷田部の力なら片手でも雫石を吹き飛ばせそうだ。これ以上何か言われていたら、谷田部は雫石に掴みかかっていたに違いない。ステージに残っていた他のメンバーは、固唾を飲んで二人のやり取りを見守っている。
だが、そこに場違いなまでにのんびりとした斉賀の声が割って入った。