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喝采
第6章 クリスマスオラトリオ
「来いよ」

 バスローブを床に放り投げ、谷田部は雫石を呼んだ。谷田部の言動から意味を悟った雫石はビクリと体を震わせ、動きを止めた。体を隠すようにバスローブの襟をかき合わせる。

「どうした?」
「僕の体は醜い。だから拓人には見せられない。見たらきっと拓人は僕に嫌悪を抱くだろう」

 雫石は襟をきつく重ねたままその場に立ち尽くしている。

「僕は拓人に嫌われたくない……」

 谷田部は起き上がり、うつむく雫石の傍らに歩み寄った。体には手を触れず、声だけをかける。

「……玲音が昔、大きな事故に遭ったことは斉賀さんから聞いた。足もそのときに痛めたとも聞いた」
「そうだ。そして二度と他人には見せられない、醜い体になった」

 肩を抱こうとした谷田部の手を、雫石は跳ねのけた。そしてそのまま壁際までゆっくりと後ずさった。

「見くびるなよ?」

 谷田部の声に、雫石は弾かれたように顔を上げた。

「俺は玲音ならどんな体だっていいんだ。玲音も知ってるだろう? 俺はMで、その上堪え性だってないんだからな」

 谷田部が胸を張ると、玲音は吹き出した。

「本当に変わった趣味だな。僕がどんなに醜い体でも、拓人は僕が欲しいのか?」
「欲しい。俺が惚れたのはお前の外見じゃない。つべこべ言わずにさっさと来いよ。来ないならこっちから襲っちまうぜ?」

 何度も何度も、繰り返し確認する雫石。他人のことも、自分のことさえ信用できない雫石には、根気よく谷田部の想いをぶつけていくしかない。

 何度も、何度でも。
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