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喝采
第7章 目覚めよと呼ぶ声あり
 翌日は大雪だった前日とは打って変わって雲ひとつない快晴になった。

「んんんんん……ふう」

 谷田部は、宿泊しているホテルのベッドで気持ちよく目覚めた。たっぷり眠った後の心地よい脱力感。そして腕の中で猫のように丸くなって眠る雫石の寝顔を見つめ、商売道具のとろけるような甘いテノールで囁いた。

「おはよ」

 長身でがっしりとした体型の谷田部に、小柄で華奢な雫石。
 性格は谷田部が明るく大らかなのに対し、雫石は繊細で沈着冷静。
 外見も性格もまるで正反対の二人だが、今では一つのベッドで共に眠る間柄だった。

「おはよう、玲音」

 二晩一緒に眠ってみてわかったのだが、雫石は非常に寝起きが悪かった。優しく囁いたくらいでは案の定うんともすんとも言わず、ピクリとも動かない。それならばと、すぐそばにある綺麗な形の鼻をつまんでみるが、わずかに身動きしただけで、これもあまり効果がなかった。

「お・は・よ・う・れ・お・ん!」

 細い体の上に覆い被さって耳元で叫ぶと、雫石はようやくうっすら目を開けた。

「……おはよう、拓人」

 寝ぼけた声は谷田部と同じ、甘やかなテノール。ただし谷田部よりだいぶ細くて軽い。

「ん? 顔赤いな。もしかして熱あるんじゃねえか?」

 覆い被さったまま額同士をくっつけて確かめると、雫石は嫌がるように顔を背けた。

「すげー熱じゃねえか」
「気のせいだ」
「気のせいなわけねえだろ」

 雫石はひどく緩慢な動作で谷田部の下から抜け出した。一歩を踏み出したとたん転倒しかけた雫石を谷田部は慌てて支える。雫石は足が少し不自由だった。

「その様子じゃ、もう一日延泊した方がよくねえか?」
「……いや、帰る」

 帰ると言った割には、雫石は再びベッドに潜り込んで辛そうに目を閉じた。
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