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喝采
第7章 目覚めよと呼ぶ声あり
 五分ほどで戻ってきた谷田部は、白い湯気の立つグラスを手にしていた。

「ホット・レモネード。これなら飲めるだろ? ビタミンCは風邪に効果的なんだぜ?」

 谷田部が風邪をひくたびに母親が作ってくれたホット・レモネード。
 作り方はレモンの絞り汁をお湯で割り、蜂蜜を加える。ただそれだけだ。
それだけなのに、母親の作ってくれたレモネードは、他のどんな飲み物よりも、美味しかった。

「温かい……。ホット・レモネードがこんなに美味しいものだとは知らなかった」
「だろ? お袋直伝だ」
「拓人のお母さんの……。拓人が優しいのは、ちゃんと家族に愛されて育ってきたからなんだね。なのにどうして……」

 雫石は微かに笑った。
 だが谷田部は笑えなかった。
 淋しさの透けて見える笑顔に胸がつまる。
 笑っているのに、どうしてこんなに淋しそうなのだろう。

「どうして拓人は、僕なんかを……」

 雫石は淋しい笑顔のまま、まっすぐに谷田部を見た。淋しい笑顔が、淋しい言葉を紡ぐ。

「僕は君みたいな、誰からも愛されるような人間じゃない。家族にすら愛されなかった僕は、やはり君にはふさわしくない」
「そんなことはない。何度言えばわかるんだ?」

 谷田部は雫石の華奢な体をきつく抱き締めた。
 家族の愛を知らないと言う雫石の心は、まるで固く凍てついた残雪のようだった。いつまでもただ一人、春の訪れに気づかない。
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