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喝采
第7章 目覚めよと呼ぶ声あり
「……ありがとう。僕は拓人に面倒をかけてばかりだな」
「気にするなって。お互い持ちつ持たれつだろ?」

 預けられた頭を、谷田部は大きな手で乱暴にかき回した。

「僕はまだ、拓人に何もしてあげられていない」
「そうか? そんなに気にするなら、今度ドイツ語でも教えてくれよ」

 声楽を生業とする者として谷田部も例に漏れず、ドイツ語から逃れることはできなかった。小さな歌曲から大規模な歌劇まで、ドイツ語で書かれた歌は非常に多いのだ。そのため、谷田部は以前から機会があれば、本場のドイツ語を学びたいと思っていた。その点ウィーンで生まれ育った雫石のドイツ語はやはり本物で、教師としてうってつけだった。

「わかった。では、発音の基礎から徹底的に叩き込むとしよう」
「うっ、お手柔らかにお願いします……」

 谷田部は救急箱から取り出した熱冷まし用のシートを、雫石の額に貼った。薬ではないため気休め程度にしかならないが、少しは楽になるはずだ。

「熱、辛くないか?」
「大丈夫」
「ちょっと買い出しに行ってくる。消化のいいもん作ってやるから、大人しく寝てろ」
「うん」

 雫石は子供のような返事をして、笑った。子供のような邪気のない、笑顔だった。こんなに無防備な笑顔を見せるのは熱のせいなのか、それとも――。

 雫石が布団をかぶったのを確認して、谷田部はそっと部屋を出たのだった。
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