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喝采
第8章 満ち足れる安らい、嬉しき魂の喜びよ
 「クリスマス・オラトリオ」からおよそ三ヶ月が過ぎた四月初旬、成田空港第二旅客ターミナル。

「玲音!」

 到着ロビーに現れた雫石に、谷田部は大きく手を振った。雫石は四月中旬に行われる「マタイ受難曲」公演のため来日した。足の悪い雫石からキャリーケースを当たり前のようにかっさらい、「おかえり」と肩を叩いた。

「さ、行こうぜ」
「本当にいいのか?」

 これから二人は谷田部のマンションに向かう予定になっていた。今後雫石が日本に滞在する際は、谷田部の部屋で同居する形となる。

「もちろん。兄貴の部屋が空いてることは、玲音も知ってるだろ。ウィークリーマンションを借りるくらいなら、遠慮なく俺んちを使ってくれよ」

 数年前まで谷田部は兄と二人で同居していた。だが兄は大学院を卒業して部屋を出ており、今は谷田部が一人で住んでいた。昨年末に熱を出した雫石を泊めたのも、兄の使っていた部屋だった。

「お前を一人にしておいたら、ロクな物を食わねえのがわかったしな。――それに」

 谷田部は雫石の耳元に唇を寄せ、囁いた。

「好きな相手とは、できる限り一緒にいたいってことさ」

 雫石の無表情な白い顔に、サッと赤みが差す。照れ隠しのようにわずかに足を速めた雫石を、谷田部は呼び止めた。

「車で来たと言っただろう。駐車場はこっちだぜ」
「あ、ああ……」

 ビルの外には春の穏やかな日差しが、二人を柔らかく照らしていた。
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