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喝采
第8章 満ち足れる安らい、嬉しき魂の喜びよ
「いいじゃない。だって『ロ短調ミサ』を聴いてからみんな玲音くんのファンなのよ? こんにちは、玲音くん」
「こらこら、なれなれしいだろ」
「あっ、ごめんなさい。拓人と同じ年だって聞いたからつい……」
「構いません。どうか玲音と呼んでください」
「拓人、これ差し入れ。まだ夕飯食べていないんでしょう?」
「サンキュ」
「これ、皆さんで召し上がってください」

 雫石は美しく包装された箱を両親に差し出した。中身はお菓子のようだが、わざわざウィーンから持ってきたのだろうか。

 雫石と谷田部一家はとしばらく歓談していたのだが、何か歌って欲しいという姉のリクエストに雫石はうなずき、ピアノへ向かった。
 谷田部は姉を肘でつついた。

「おい、なに図々しくお願いしてるんだよ、姉貴。玲音は長旅で疲れてるんだぜ」

 現在、ウィーンから成田への直行便はない。必ず経由便になるため、トランジットを含めるとかなりの長時間フライトになる。

「構いません。僕でよければ」
「ありがとう、嬉しい! 拓人は玲音くんの歌、聴きたくないの?」
「うっ……聴きたい。わかった。でも一曲だけにしろよ?」

 座面の調整を終えた雫石は椅子に浅く腰かけ、鍵盤に指を走らせた。
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