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喝采
第10章 我、深き淵より御身に祈る
夢を見た。
不在がちな両親が珍しく揃った、幸せだったクリスマスの夢を。このときのことはよく覚えていた。
両親に教わりながら見よう見まねでフレーベルの星を折り、ツリーに飾った。そして手を傷つけることを恐れて滅多に料理をしない母の手料理と、両親からの贈り物。夢の中で雫石と両親は楽しげに笑っていた。
――あの頃は、両親に愛されていると思い込んでいた。
雫石は目が覚めた。
けれど雫石のそばには誰もいなかった。
夢は夢でしかないのだ。
雫石は誰もいない病室で天井を見上げた。
たとえ息子がどれほど苦しんでいようとも、決して両親は来ない。自分の子供より公演を優先するのはプロとして当然のことだから。
では、二人がウィーンに戻ったら会いに来てくれるだろうか。
きっと彼らは来ない。
両親の意に反し声楽の道に進んだ雫石は、もう両親に愛されてはいないのだ。
そういえば、あのときもらったクリスマスの贈り物は、どこへいっただろう。
実家に置いてきてしまったのなら、両親に処分されているに違いない。
贈り物と同様、雫石も両親に捨てられたのだ。
。
半年近くに及んだ入院期間中、雫石が心の奥でどれほど神に祈っても、一度も両親は来なかった。
この世に神などいないのだ。
ようやく雫石にはそれがわかった。
不在がちな両親が珍しく揃った、幸せだったクリスマスの夢を。このときのことはよく覚えていた。
両親に教わりながら見よう見まねでフレーベルの星を折り、ツリーに飾った。そして手を傷つけることを恐れて滅多に料理をしない母の手料理と、両親からの贈り物。夢の中で雫石と両親は楽しげに笑っていた。
――あの頃は、両親に愛されていると思い込んでいた。
雫石は目が覚めた。
けれど雫石のそばには誰もいなかった。
夢は夢でしかないのだ。
雫石は誰もいない病室で天井を見上げた。
たとえ息子がどれほど苦しんでいようとも、決して両親は来ない。自分の子供より公演を優先するのはプロとして当然のことだから。
では、二人がウィーンに戻ったら会いに来てくれるだろうか。
きっと彼らは来ない。
両親の意に反し声楽の道に進んだ雫石は、もう両親に愛されてはいないのだ。
そういえば、あのときもらったクリスマスの贈り物は、どこへいっただろう。
実家に置いてきてしまったのなら、両親に処分されているに違いない。
贈り物と同様、雫石も両親に捨てられたのだ。
。
半年近くに及んだ入院期間中、雫石が心の奥でどれほど神に祈っても、一度も両親は来なかった。
この世に神などいないのだ。
ようやく雫石にはそれがわかった。