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喝采
第10章 我、深き淵より御身に祈る
 雫石と両親が病室内で話をしている間、谷田部は目を閉じて壁に寄りかかり、腕を組んだままただ立っていた。そのためエレベーターを降りた人影が、谷田部に向かって歩いてくるのに気づかなかった。

「あれ? 谷田部っち。そんなところでどうしたの?」
「斉賀さんとペーター?」

 谷田部に声をかけたのは、洋服と和服が融合したような不思議な服を着た斉賀と、見るからに上質なスーツを着たシュミットだった。

「今、玲音が両親と中で話をしているんです。俺は邪魔にならないように、ここで話が終わるのを待っています」

 すぐに斉賀は谷田部の言葉の意味を察したようだった。表情を変え、瞳に真剣な光を映す。

「玲音が崇とアリサと? 玲音は二人を許したんだね」
「おそらく初めから許してましたよ、玲音は。ただ、互いに互いを怖れていたのと直接話し合う機会がなかっただけです」
「……アリガトね、谷田部っち。僕たちの力だけでは彼らを和解させることはできなかった」
「いいえ。玲音から全てを聞きました。音楽の道を諦めかけていた玲音が立ち直ったのは、斉賀さん夫妻とペーターのお陰だと」

 雫石を温かく迎え入れ、立ち直るきっかけを作ったのは両親でも、もちろん谷田部でもなかった。

「あ、出てきました」

 病室から出てきた雫石の父親、雫石崇はいつの間にか現れた斉賀とペーターに怪訝そうな眼差しを向けた。

「谷田部くん、待たせたね。……ペーター?」
「崇!」

 シュミットと雫石の父親は早口のドイツ語で会話を始めた。谷田部にもシュミットが雫石の容態を案じて、ウィーンから飛んできたことは聞き取ることができた。

「とりあえず中で話そうか。みんな、中に入ってくれ」

 谷田部たちは病室に招き入れられた。
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