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喝采
第10章 我、深き淵より御身に祈る
「ウィーンへは、退院許可が出たらすぐにでも帰ろうと思っています」

 雫石の入院はひと月の予定だった。リハビリにある程度の日数がかかるとしても、一年休むというのはあまりに長すぎる。しかも日本ではなくウィーンに帰るという。

「どうして……」

 どうして一年も休むのか。どうして日本ではダメなのか。

「これ以上拓人に迷惑はかけられない。ウィーンに帰って、昔の事故の時から診てくれた先生の元でリハビリをしようと思っている。事故の前と同じように歩けるようにはならないかもしれないけれど、最善を尽くしたい」
「そうか。一人で丈夫なのか?」

 退院してもしばらくは、日常生活に他人の手助けが必要なはずだ。

「大丈夫だ。両親がサポートを約束してくれた。僕の家族は互いを省みなさすぎた。怪我を機に実家に帰り、一年かけてもう一度初めから家族をやり直したいと思っている」

 「一年」という期間の意味がやっと谷田部にも理解できた。怪我を癒すためではなく、家族との関係をやり直すために、一年という時間が雫石には必要なのだ。

「わかった。俺のことは気にしなくてもいい。玲音のしたいようにすればいい」
「ありがとう。しっかり治して帰ってくるから、待っていてほしい。歌ももう一度学び直したい

「待ってるぜ、玲音。また一緒に歌おうぜ。斉賀さんが俺を使ってくれたらの話だけどな」

 谷田部に上目遣いに見つめられた斉賀は楽しげに笑った。

「もちろん二人とも使うに決まってるよ。谷田部っちの声は玲音の声とよく溶け合うんだからね」
「ほう?」

 斉賀の言葉を聞き、シュミットが眼鏡の奥の瞳をきらめかせた。

「それは興味深いね。玲音が復帰したあかつきには、是非二人の歌を聴かなければ」
「ウン、そうするといいよ。すごく楽しいから」
「玲音、待っている」
「はい」

 雫石は照れ臭そうにちょっとだけ笑った。

 みんな、雫石が一年後に帰ってくるのを、待っていた。
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