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喝采
第11章 マタイ受難曲
「雫石さん変わったよな。雰囲気も、歌も」

 ゲネラルプローベの休憩時間、加藤が谷田部に話しかけてきた。雫石は席を外していて不在だった。

「ああ、変わった。一年でこんなに変わるもんなんだな」

 雰囲気だけでなく、雫石の歌も明らかに変化していた。どこか悲劇的で脆さを感じる歌唱から、静かな落ち着きと哀愁を漂わせた歌唱へ。

「いいよな、すごく。俺も雫石さんに歌ってもらいてえ」

 加藤は斉賀の元で歌う傍ら、アマチュア古楽団体の指揮者も兼ねていた。

「要相談、ってところだろうな。玲音は元々あちこちから引っ張りだこのカウンターテノールだぜ?」
「わかってる。でも、まさかここまで化けるとは思わなかった。雫石さんを使い続けてきた斉賀さんの気持ちがよくわかるよ」

 元々音程に関しては正確無比の雫石だ。谷田部を魅了した不思議な声質もある。さらに今まで感じられた脆さが払拭されたとあれば、まさに鬼に金棒だった。

「今回のマタイ、楽しみだな」
「ああ」

 週末の聖金曜日が「マタイ受難曲」の本番だった。きっと今までにないすごい公演になる――。

 ゲネラルプローベで感じた谷田部の予感は、外れることがなかった。
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