この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
喝采
第11章 マタイ受難曲
 バッハの「マタイ受難曲」は全てのクラシック音楽の中で最高峰ともいわれている作品だ。「マタイ受難曲」はタイトルからもわかる通り、聖金曜日の礼拝のために作曲されたものだ。そのため現在でも聖金曜日を含む受難節に演奏されることが多く、今日の公演も聖金曜日だった。

 斉賀が両手を上げ、静かに動かした。

 厳かなコラールで「マタイ受難曲」の幕は開ける。バッハの楽曲におけるコラールは、バッハ自身が作曲したものではなく、バッハの属したルター派の讃美歌を、編曲して取り入れたものだ。
 弦と木管だけで構成されたオーケストラが旋律を紡ぐ。

 オーケストラ、ソリスト、合唱、ソプラノ・リピエーノが見事に和し、イエスの受難の物語を斉賀の指揮により描き出してゆく。観客は音楽に心を浸し、イエスの受難に思いを馳せる――。

 物語の状況を説明し、各声部による歌唱に繋げるのは、エヴァンゲリストである谷田部の役割だ。柔らかな通奏低音に乗せ、物語を適切に進行させてゆく。

 そして物語は中盤に差し掛かり、オーケストラを伴ったソロ・ヴァイオリンが哀切な旋律を奏で始めた。「マタイ受難曲」の中でも特に有名なアルトのアリア「憐れみたまえ、わが神よ」だ。ソロ・ヴァイオリンに導かれ、雫石が歌い始める。

 静かに、切なく、この上もなく美しく。

 雫石の歌は聴き手の心を揺さぶるものから、もっと奥深く、魂を揺さぶる歌になっていた。ホールのあちこちで、たまらずハンカチで目頭を押さえる観客の姿が谷田部には見えた。

 「マタイ受難曲」最後のコラールが終わり、斉賀が観客に向かって頭を下げた。一瞬ののち、割れんばかりの拍手がホールの空気を振るわせる。いつもはブラボーと叫ぶ常連も、叫ぶことすら忘れ、ただただ顔を上気させて手を叩き続けた。

 「コレギウム・トウキョウ」の「マタイ受難曲」公演は大成功だった。
/100ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ