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埋み火
第2章 熾し火
 涙を浮かべながら霧子はティッシュの中に賢治が放ったものを唾液と一緒に吐き出した。

 青臭い苦みが口の中に広がり、上顎や喉まで灼けそうだ。

 先走りの汁も、つい一か月ほど前に口に入れたものとは全く質の異なる、知らない液体ではないかとさえ思えた。

 満足げな顔でベッドから下りた賢治が冷蔵庫からミネラルウォーターを出しキャップを開けて霧子に渡してきたので無言で霧子は受け取って三口ほど飲み、口内に残ったものをゆすぐように飲みこんだ。


(ひろのと、味も匂いも全然違うのね。どっちの味が男として普通なのかしら)


 男のものの差異を感じたこともだが、博之のものを口に含んでいるときとは自分のからだの反応があまりにも違いすぎる。

 目の前に突き出された男の象徴を見ても、いつものように「いとおしい」「早く欲しい」という感情が全く沸かなかった。


(どうしたのかしら。別に賢治さんが嫌いじゃないのに。私、前はいつも好きで楽しく口に入れてたわ)


 今日の昼には開き直って、賢治を好きになろうと決めた。

 優しい男だし、同じ隠れてつきあうにしても霧子のことは極力大切にしてくれそうだった。

 だが口の中に残る、肉塊の暴れた感覚と生暖かい精液の感触に閉口していると賢治は霧子の逡巡には全く気付いた様子もなく「もうええかい?」とボトルを霧子の手から取ってテーブルに置き、羽毛布団をめくってその中に引っ張り込んだ。

 まだ息も荒く、顔も体も汗にまみれた賢治は未だ熱を帯びない霧子の体を抱きしめ、満足そうに頬を撫で、話しかけてきた。
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