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埋み火
第2章 熾し火
 だまってされるがままになっている霧子の頬に賢治の汗が垂れてくる。


(すごい汗。そういえば、ひろもイった後は暑がっていたわね)


 エアコンの設定温度をがんがん下げ、霧子が寒がるとシーツにくるんでやって自分は事後の火照った体を冷やしていた博之はひどい暑がりで、翌朝ホテルに再び来るときはいつも「温度下げといて」と浜松町駅から電話で頼んでいた。


 朝ご飯がわりにしろ、と霧子が好きなプリンやアイスを持って、冷えた部屋にやってきた博之を出迎えるときのことを思い出し、今なにをしているのだろうかと考えていると、賢治がまた上に乗ってきた。

 汗ばんだ賢治にしつこく唇を吸われながら、瞼の裏では博之の眠そうな顔を思い浮かべる自分はいったいどうしたのだろう。

 ひどい淫売ではないか。

 それもどちらの男にも妻と子がいる。

 自分はいつから、こんな乱れた女になったのか。


(私もとんでもないけど、この人たちもとんでもないわ。二人とも、いい会社に勤めて子供も私立に通わせるくらい人生が順調なくせに、よそに女まで作るなんて何の不満があるっていうのよ)


 自分は今までほぼ専業主婦だったし、小さいパートでこっそりためていた貯金ももう少ししかない。

 今は正社員ですらない。

 ちょっと油断していたらすぐに四十代に突入してしまうだろう。

 霧子は「愛」など脆いものだということを十分に知っているし、いくら愛し合って結婚していても異性としての興味や愛情などはすぐ消えてそこからは理性やモラルだけで家庭と貞操を守るものだとわかっている。

 そして仕事に倦んで帰る家が安らげる場でなければ、博之のようにもがき苦しんでよそに救いを求めたりもするだろう。

 だが、賢治の気持ちだけはわからなかった。数時間前に妻や娘の話を笑いながらしていたのに、今は「好きでたまらない」と夢中で霧子を抱こうとしている。

 自分に魅力があるから男が寄ってくるのだ、などとは全く思わない。

 自分はおとなしくて都合がいいだけなのだろう。

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