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埋み火
第2章 熾し火
 無我夢中で霧子を征服しようと賢治が汗まみれで動いている中で、組み敷かれた霧子はいま自分を抱いている男とは別な男のことを思っていた。


(やっぱり、この人とこんなことをした後にひろに会うのはちょっといやだわ。もうちょっと経ってからにしよ)


 霧子は霧子で、十年休んでいた「女」をこの一年で急速に取り戻していた。

 夫と同じく自分は性に淡泊だと思っていたが、夫との心の距離をあけないようにという無意識の配慮でそう思いこもうとしていたのだろう。

 夫とのつまらないセックスでは満足できないが、かといって注文をつけるわけにもいかないとなるとそういう暗示をかけて「だからしかたない」とあきらめていた。


 今は好きな男に抱かれることもだが、抱かれて変わってゆく自分に驚きながら変化が面白くもある。

 賢治には悪いが、今夜のことは自慰のようなものだと思わせてもらおう。

 ここまできて途中でやめてくれるわけもないだろうし、汗と精液は匂いが気持ち悪かったが賢治に対して嫌悪感までは抱かないので体の欲求だけ満たさせてもらうことにしよう。

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