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埋み火
第2章 熾し火
 霧子の膣内でまだ脈動を続けてゴムの中に白濁液を放ちながら、賢治は心の底から感極まって霧子を夢中で抱きしめた。


「俺、どうにかしてる。霧ちゃんが好きで好きでたまらん。俺のもんや、このまま連れて帰りたい」


 そんなことは既婚者の賢治には到底無理だ。

 数十秒前に突かれて乱れたのに、あきれるほど霧子は冷静だった。


「そんなの……気のせいよ。たまたま奥さんより若い女がそばに来て、それを抱いたからそう錯覚してるのよ」

「はぁ……そうかなぁ。でも俺かて、勢いだけとかじゃこんなとんでもないこと、せえへんよ。やっぱ霧ちゃんのことが昔から好きやったもん」


 それは本当だろう。

 よく思い出してみると、賢治は伏見支店時代にいつも霧子を気遣ってくれた。

 その中で今になってみれば「この人はもしかして」と思えることも何度もあった。

 だが、そんなものはお互いの「幻想」でしかないのだと霧子は知っている。

 いま自分がいちばん、幻の中で博之という男を慕い続けているからわかる。

 本当に自分にとって最良のパートナーかどうかではない。

 手に入らないからこそ欲しいというだけで憧れているのだ。


「でも、ちゃんと好きな男ができたら言ってな?」

「……どういうこと?」

「そん時は諦めて身を引くよ。大変だった霧ちゃんが幸せになるのを、俺は邪魔したくないから」


 賢治にしてみれば、いとしい女を囲いたい気分もあるが大事だからこそ幸せになってほしい。

 そう思って言ったのだが、あの日に博之から同じことを言われて傷ついた霧子にはそれが絶対に言われたくない、いくつも誘爆を起こす地雷のような言葉だった。
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