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埋み火
第3章 跳ね火
 自席に戻るとパソコンに霧子からチャットメッセージが入っていた。



≫月がきれいだよ。



 朝から何を言っているのか、と博之は首をかしげ、チャットを打った。



≫夜じゃないんだから見えないぞ。

≫わかんないの? じゃあいいよ。

≫何だよ、教えろよ。

≫やだ。パソコンあるんでしょ?



 六歳も年下の霧子にバカにされたような気がして博之は一瞬ムっとしたが、何かしらの意味がある言葉なのだろうかと思ってネットで「月がきれい」と打ち込んでみた。

 すると、夏目漱石が「アイラブユー」を日本語らしく英訳した……という話が出てきて、博之は目を見開いた。


(素直に言えばいいのに、こんな回りくどい言い方しやがって)


 そう思ったものの、今まで博之のほうは素直な告白を避けていた。

 顔も知らないころにチャットでひとこと「好きになった」と言っただけだ。

 照れも多少あるが、自分の立場で何を言っても嘘っぽく聞こえるだろうから、霧子がいくら腕の中で自分に好きだと言っても「俺もだ」と返せなかった。

 ただでさえ不器用なのにこの年にもなると、感情が硬直して素直な気持ちを吐きだすことが苦手になってきたのかもしれないと博之は思った。





「澤さん」


 おどけて「旅費少し出してくれよな」と打ったあと、呼ばれて振り返ると同僚が書類を持って立っていた。


「これ、昨日の落下試験のデータのまとめ」

「ああ、ありがとう」

「次もどうやら、うちらに与えられるのは脂っこいプロジェクトっぽいっすよね」

「ほんと、どんどんめんどくさくなるなあ」


 ベトナムや中国の工場に出張で行くのもつらいが、同業他社の製品の研究もある。

 博之は出世しているほうではないが、性格的に何かと面倒な作業を頼まれやすい。
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