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埋み火
第3章 跳ね火
 いつもよりリラックスして会うことができたものの、霧子の狭いワンルームマンションの部屋に入ると、博之は結局またひどい緊張感に襲われた。


「荷物とか、適当に置いちゃってね。ハンガーはあっち、洗面所とかはそっち」


 指示する霧子の横顔を改めてじっくり見ると髪も少し伸び、相変らず薄化粧だが健康的な色香を放っていた。


(相変らず、エロい音楽教師みたいな服だな)


 教師と言ってもお堅い、色気のかけらもないヒステリー女の部類ではなく、思春期の男子生徒が憧れるような清楚さと色っぽさがある。

 新宿に通勤していると、霧子よりも着飾った綺麗な女たちは山ほど見かける。

 だが、博之はこういった控え目で盛っていない女が好きだ。


(きり、ちょっと見ない間にまたきれいになったな。いや、どんどんきれいになっていくんだけどな)


 ストレートの黒髪にそのようなファッションの霧子はよく大学職員やピアノの講師と思われることが多いらしいが、そんな外見なのに脱がせてしまえばベッドで激しく乱れあえぐのを知っているのは、とりあえず自分だけだと思っている。

 もしかしたら言わないだけでまだその課長と続いているのではないかとたまに勘ぐるが、血がにじむほど乱雑に扱うような男が霧子の体を目覚めさせるとも思えない。

 そんなことを考えながら、いつものくたびれた鞄をフローリングに置いてジャケットを脱ごうとした博之の背中に、霧子がそっとやわらかな体を寄せてきた。


「どうしたんだ」


 いつもは、さっさとトイレに行ったり、「化粧がついちゃうから」と博之が服を脱ぐまで密着するのを遠慮しているのに、と不思議に思っていると、か細い声で「さびしかった」としぼり出すのが背後で聞こえた。


「そうか」

「さみしかったよ」
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