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埋み火
第3章 跳ね火
 動けないでいると、背後の霧子のすすり泣きが自分の肉体を通じて響いてくる。


「もう、一生会えないって思ってた」

「ばか」


 それでやっと、子供のようにわんわん嗚咽をはじめた霧子のほうに向きなおり、涙で頬に張りついた前髪をのけて今までしてきたどのキスよりも優しいそれをしてやった。


(嫁となんてもうずっとしてないって、だいたいわかるだろ。どうして勝手に妄想して勝手に泣くんだ。どんだけ、お前は弱いんだ)


 呆れるやら可愛いやら、自分にしがみついて泣く霧子が博之は愛おしくて仕方ない。

 DVに耐えたり、離婚の裁判のほうが自分などと会えないことよりよっぽどしんどいだろうにと博之は力をこめて霧子を抱きしめた。

 少し長くなった髪からは、変わらずシャンプーのよい香りがする。

 ワイシャツには涙と、うっすら化粧がついてしまっているが、家に帰ったら自分で洗濯機を回してしまえばいいだけのことだ。

 今日は好きなだけ、気持ちを吐きださせてやろうと博之は思った。


「自分で新幹線に乗ってみて、いつもお前にだけ大変な思いさせてたのがわかったよ。次からはなるべく、俺も来るから」


 いいのよ、と泣きじゃくる霧子を腕に力をこめて抱く。


「ほら、ぎゅーってしてほしいんだろ?」


 霧子はいつもセックスを終えた後でも、博之の腕の中にいたがる。

 甘えたがりの自覚はあるらしいが、とりわけ博之には最初はきつく抱きしめてくれと頼むことが多い。


「だって、そっとしか抱きしめてくれないもん」

「お前、華奢だから折れそうで怖いんだよ」


 腕に力をこめると、ますます霧子が泣くので痛がっているのではないかと怖くなるほどだ。
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