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埋み火
第1章 忍び火
 博之がのしかかっているため腕しか動かせないので、博之の肩や頭に触れる。

 硬くて少し赤みがかった博之の癖毛が霧子は好きで、髪の中に指を入れてくしゃくしゃにする。


「あ。白髪、増えた?」

「言うな。最近は髭にも増えたんだ」

「ほんとだ」


 暗さに目が慣れてきたので、顎のラインに白い髭が混じっているのを何本も発見した。

 髪からフェイスラインへ指を動かして、ざりざりとした伸びかけの髭の感触を確かめながらぼんやりと霧子は自分のことを思い出した。


(そういえば私も白髪がてっぺんに一本あったんだわ。新幹線のトイレで抜いてくればよかったかな)


 ……こうしてまた余計なことを考える、と霧子は反省した。

 頬や髪から視線を外して左肩に触れると、かさかさしたケロイド状の跡が指に引っかかる。

 本人も気にしていないというのだが、どうにも霧子はそれがかわいそうに思えてならない。



 これは感傷だ。

 自分が心配する必要も権利も、義理もない。

 わかっている。

 どうせ自分は「主食」ではない、「たまに食べるデザート」程度なのだ。




 自嘲気味に、霧子はそのかさついた跡を優しく撫でる。

 愛し合っている、彼を理解しているのは自分だけだというのが錯覚や思い込みでも、今はかまわない。
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