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埋み火
第1章 忍び火
「新幹線、疲れただろ。腹減ってないか?」

「大丈夫、ちゃんと食べたから」


 霧子は嘘をついた。

 博之と二か月ぶりに会えることで胸がいっぱいになってしまい何も食べられなかったのと、元来胃下垂ぎみで食べると下腹部が出てしまうのがいやなため、シリアルバーと水だけで空腹をごまかしている。


「ほら、鞄。貸せよ」

「重たいよ?」


 歩きだす前に手を出してきた博之に、霧子は荷物を渡した。


「ほんとだ。何でいつも一泊のくせにこんなに重たいんだ」

「女はいろいろあるのよ」


 霧子の旅行用トートバッグは明日の着替えと化粧品、それに博之への土産の菓子くらいしか入っていないが、大半がシャワーのあとに使うボディケア用品で、それらはすべて明日の朝から彼に抱かれるためのものだ。

 化粧品にしてもクリームや液体ばかりなので見た目より重量はある。

 以前はピンク色のボストンを使っていたが、博之がこうしてホテルまで持ってくれるので男性にそんな色の鞄を持たせるのは悪いと思って黒いものに買い替えた。
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