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埋み火
第1章 忍び火
「今、家のこと考えてたでしょ」


 舌の動きが止まったので見やると、形のいい唇をとがらせて上目使いで霧子が問い詰めていた。


「そんなもん考えてないよ」

「ほんと?」

「ああ、だからもっと舐めて、はやく」


 また霧子の頭を撫でて口戯の続きを頼むと、霧子はまた股間まで顔をおろし、口に含んで唇をすぼめリズミカルに吸いはじめる。

 刺激を与えられ何度も体を震わせていると片手が男の会陰部にのび、一点を指で押された。


「あっ」


 霧子は幹をしごき上げながらもう片方の手は器用に陰嚢を優しく揉み、あいている指で隠れた性感帯をピンポイントに押してきた。

 感じて頭を振りながら声を上げるさまがまるで女のようでみっともないと自分でも思うのだが、このような快感を味わったことがないからしょうがない。

 セックスでここまで優しく尽くしてもらったことがほとんどない博之にとって、霧子は女神のようだ。


(この女神は、すぐ泣くし拗ねるし我が儘ばっかり言うんだけどな)


 それでも、聞き分けがいい方なのだろう。

 よくありそうな「奥さんと別れてよ」みたいなことを霧子は一切言わない。

 もちろんデートもこうして隠れてしなければならないし、小遣い制だからろくに何も買ってやれず、旅費を貯めるだけで精いっぱいだ。

 本人は「もうおばさんだから」というが十分若々しくて魅力的な霧子を日陰の身にしてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが、もし「奥さんと別れて」「私とどっちが大事なの」など言われてしまえば自分は何も言えなくなってしまう。

 妻子持ちだと打ち明けた夜に泣かせてしまってから、霧子の涙はやはり苦手だ。
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