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埋み火
第2章 熾し火
 抵抗を諦めた霧子はされるがままにまた仰向けにひっくり返され、体の下敷きになったブラウスとブラジャーを引き抜かれると黙って賢治の愛撫を受け入れ続けた。


(これでいいのよ)


 もう博之とは会わないと決めたものの、寝ても覚めても結局は博之のことしか考えられなかった。

 しかし自分は博之を一途に思っていても、博之は自分だけのものにはなってくれない。

 どうすれば気持ちが楽になるかずっと考えていたが、自分も他に大事な人ができればいいのだとこのツインルームに入ったときに思いついた。

 お互いに「二番目」どうしなら、こんなに苦しまなくともたまに会って抱き合って、ほどよい幸福が味わえるのではないか。

 そうこうしているうちに、博之が妻とどこに出かけても気にならなくなって、最後には彼のことなど忘れてしまえるかもしれない。

 よく考えれば、博之と賢治の間にどんな差があるというのだろう。

 どちらも四十代の妻子持ちだ。だとしたら近場で、土日に京都に出てこられる賢治でもいいのではないか。
 
 賢治は潤沢に小遣いもあるらしく、博之のようにやりくりして何とかデート代を捻出することもないから、奢られることへの申し訳なさも感じなくて済む。

 結局は賢治も既婚者だが、それでも博之とつきあっているときほどの寂しさも味わわなくて済む。

 あとは用心して密会を続けるなり、霧子のほうで見切りをつけるなりすればよい。

 とにかく、自分は「いま」博之に会えないのが寂しいのだ。


(うん。やっと楽になれるわ。もう、あの人の重荷になりたくないもの。寂しくて我が儘を言って嫌われるくらいなら、これでいいのよ)


 他の男にどうこうされようと、三十六にもなった自分のからだなど、どうせ価値はない。

 そして既婚者である博之相手に「貞操を守る」なんて思う必要もないのだ。

 気軽に男を作って、そして同じくらい気軽に抱かれておけばいい。
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