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埋み火
第2章 熾し火
 涙のにじむ目を固くつぶって、胸元でさわさわとうごめく賢治の髪の毛を感じながら霧子は「これは博之だ、博之のものだ」と思うことにした。


(同じ匂いのシャツだもの、きっとすぐに気持ちよくなれるわ。ちょっと手つきが荒っぽいけど、あの人だってそんな風に女を抱きたいときもあるはずよ)


 そう思い、目をつぶって黙って賢治を受け入れる。

 いずれ指での愛撫も終わるだろうし、今では霧子のからだは濡れやすいらしいから問題もない。

 しかしびちゃびちゃと音を立てて乳首を舐め回した賢治は、もう片方の乳首を粗っぽく弄りはじめた。

 男の指は皮膚も硬く、潤滑剤になる愛液も出ない箇所を乱暴にいじられると鋭い痛みがそこからびりっと広がる中で霧子は愕然とした。


(ちがう)


 自分の胸元で揺れる賢治の髪の毛は柔らかい直毛で、あまり量は多くない。

 いや、出会ったころより確実に減っている。

 興奮から汗をかいた額の生え際は間接照明の明かりを受け光っている。

 同じ武骨な指でも、博之はどこまでも優しく、霧子を大切なこわれもののように、痛くないようにと扱ってくれた。


(ひろじゃない。この人は、ひろなんかじゃない。ぼさぼさで硬い、ひろの髪がいい。じゃなきゃいや)


 体目当てでもいい。どうせ物好きな男か年上の男しか寄ってこないだろう。

 だとしたら博之がいい、他の男の腕の中では自分は安らげないのだと今ごろ気付いた。

 博之の硬い癖毛に触れたいと思ったとき、痛みからではなく何か切ないものがこみあげて鼻の奥がツンとした。

 あのドレッサーには、博之が毎回東京に来るたびに半分出してくれる新幹線代を使わずに入れてある。

 帰ったら仕度をして、月曜の新幹線で東京に向かいたい。

 そのまま新宿に行って、ちょっとだけ会えたら京都にとんぼ返りするのでもいい。

 職場は午後から半休を取ろう。一瞬でもいい、博之の顔を見て、群衆の中ででもいいから手をつないで隣で安らぎたい。

 拗ねてずっと連絡を取らなかったことは謝ろう。




 そんなことを思っていたら、また賢治が顔のそばまで上がってきて、霧子に口づけ舌を突き入れてきた。
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