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埋み火
第2章 熾し火
(痛い、痛い)


 賢治は乱暴しようとしているのではなく、こういうセックスしかしたことがないのだ。

 そう思ってみたものの、これで彼の妻や今までの恋人は痛がらなかったのだろうか。

 彼女たちと自分のどちらが正常な痛覚を持っているのだろう。

 もし今までに痛がったのが自分だけだとしたら、自分は女として体に問題があるのではないかと霧子は不安になった。

 ことに、AVをよく見てきた男たちは膣の中で早く指を動かそうとする。

 そんなものは女にとって痛いだけで何も気持ちよくない。

 別れた夫もそれをやったし、博之も最初しようとしたのでやめてくれと慌てて頼んだ。


(AVが悪いとは思わないけど、あればかりは良し悪しだわ)


 初めて博之と寝た日のことを霧子は思い出した。

 お互い童貞と処女でもあるまいし何をそんなに、というほど緊張してしまい、ことが済むまでがひと苦労だった。

 霧子が痛がるたびに博之はびくつき、何度もそこで愛撫が中断してしまった。

 だがそれでもその優しさが霧子は嬉しかった。


『きりの体、すごくきれいだよ』


 そんな言葉を、自分を抱きしめる男からもらえるなどと思っていなかったため、霧子は博之の腕の中でぽろぽろと泣いた。

 過去には夜の営みを拒否して殴られたこともあったので、どこかでセックスや自分の「性」そのものを汚いものだと嫌悪するようになっていた。

 もうそんな呪縛からは解放されたのだし、これからは気軽に女として生きていけるし恋人も作れる、と思っていた。


(私、本当はエッチが好きなんだけど。今日は違うみたい)


 あまりにせっかちな愛撫で体が痛みだした霧子は、その手を博之だと思い込もうとしたが、まったくできないと悟って気持ちが暗くなった。

 賢治の指は膣内を直線でしか動かず気持ちいい部分を探してくれない。

 肉芽を優しく刺激したりもしないため、霧子がいくら自分をだまそうとしても官能のスイッチが入らない。
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