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忘れられし花
第18章 花嵐
 馨を本館へ送ったあと、奏は光の元に取って返し、奥部屋の襖越しにおそるおそる声をかけた。

「……光様?」
「はい」

 いつもと変わらぬ、優しく静かな声が聞こえて、奏は安堵する。一人にしてほしいと言っていたのは、一時のことだったのだろう。

「夕餉をお持ちしました」

 部屋に足を踏み入れると、奏が部屋を出ていったときと寸分違わぬ姿で座る、光の姿があった。

「ありがとうございます。そこへ置いてください」
「骨、取りますね」

 いつものように光の膳に手を伸ばしたところで、光の声がした。

「必要ありません。今夜はこのまま一人にしていただけませんか」
「光様……」

 声は静かで優しいけれどはっきりと拒絶され、奏はその場で立ちすくんだ。

「お願いします」
「わかりました……。明日の朝、また来ます」

 重ねて請われ、奏はひっそりとため息を落とした。光の様子は気になるが、ここまで拒絶されては無理に傍にいることもできない。奏は足音を立てないよう、静かに部屋をあとにした。
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