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忘れられし花
第18章 花嵐
翌朝、奏は朝餉を持って奥部屋に入った。奏が入っても、光は俯きがちに座ったまま微動だにしない。
嫌な予感がした。
「おはようございます。光様、もしかして昨日から眠っていないのではありませんか?」
光は答えない。
「食事もなさってないのでしょう?」
昨夕置いた夕餉の膳は手をつけた形跡がなかった。
「私のためなどであなたの手を煩わせたくないのです。どうか私を一人にしていただけませんか」
「嫌です!」
奏は光に抱きついた。
光からはいつもの焚き染められた香のいい匂いがする。
「僕を近づけないのは、別にいいです。でもちゃんと寝て、ご飯を食べてください。このままでは光様の体がもちません」
言った傍から光はぐらりと体勢を崩し、奏に倒れかかった。慌てて抱き止めると、耳元で吐息のような微かな声が聞こえた。
「……どうかこのまま一人にしてください。どうかこのまま私を死なせてください。私はもう、生きることに疲れてしまいました……」
ぐったりと力なくもたれ掛かる光を、奏は優しく抱きしめた。二十年の間休むことなく、光は生きるために命がけで闘ってきた。光の辛さ、苦しさを考えればもう休んでいい、頑張った、と言ってあげたかった。けれどそれは言えなかった。奏は光と生を共に歩みたかった。生が光にとって苦しみしかもたらさないとわかっていても、光を死なせたくなかった。
嫌な予感がした。
「おはようございます。光様、もしかして昨日から眠っていないのではありませんか?」
光は答えない。
「食事もなさってないのでしょう?」
昨夕置いた夕餉の膳は手をつけた形跡がなかった。
「私のためなどであなたの手を煩わせたくないのです。どうか私を一人にしていただけませんか」
「嫌です!」
奏は光に抱きついた。
光からはいつもの焚き染められた香のいい匂いがする。
「僕を近づけないのは、別にいいです。でもちゃんと寝て、ご飯を食べてください。このままでは光様の体がもちません」
言った傍から光はぐらりと体勢を崩し、奏に倒れかかった。慌てて抱き止めると、耳元で吐息のような微かな声が聞こえた。
「……どうかこのまま一人にしてください。どうかこのまま私を死なせてください。私はもう、生きることに疲れてしまいました……」
ぐったりと力なくもたれ掛かる光を、奏は優しく抱きしめた。二十年の間休むことなく、光は生きるために命がけで闘ってきた。光の辛さ、苦しさを考えればもう休んでいい、頑張った、と言ってあげたかった。けれどそれは言えなかった。奏は光と生を共に歩みたかった。生が光にとって苦しみしかもたらさないとわかっていても、光を死なせたくなかった。