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忘れられし花
第2章 兄と弟
「今回の事件は全部あのクソジジイの自業自得じゃないですか」
「死者を貶めてはなりません、谷山。正人様ご夫妻にはご嫡男がおられたはずです」

 お方様は血の気の失せた紙のように白い顔で、静かに奏をたしなめた。

「馨様ですね。御年十二歳におなりです」

 松永が補足する。子供が事件に巻き込まれなかったことは、不幸中の幸いだった。

「ご両親とお祖父様を一度に失い、馨様はどんなにか悲しく、お苦しみのことでしょう。お一人で残された馨様のお心を思うと、胸が痛みます」

 お方様は胸に手を当て、悲しげに顔を曇らせた。

「両親を亡くしたのは、お方様だって同じではないですか?」

 馨の祖父と母親が、お方様の実の両親だ。禁じられた交わりではあるが、両親であることには違いない。
 だが、父親は実の息子であるお方様や娘であるお方様の母親を己の欲望のまま弄ぶような人間だった。一方、母親のことは松永の口からでさえ、一度も聞いたことがなかった。

「馨様と同じなど、畏れ多いことです。私は罪深い忌み子の身。私はこの世に存在しない者。それゆえ私には名前が与えられていないのです」

 お方様はそっと奏の手を握った。細く柔らかな手の温もりが、奏に伝わる。

「じゃあ、僕の目の前にいる、この温かい手と優しい心を持った人は誰なんですか? お方様は確かにここにいるのに!」

 これまで通り、お方様は存在しないことにされて物事が進んでいくのだろう。葬儀に参列することも、最後の別れをすることも許されず。そしてそれでもお方様は、全てを飲み込んで優しく微笑むのだろう。

 奏は勢いよく立ち上がった。お方様と馨。同じ母から生まれた二人に、一体どんな違いがあるというのか。存在すら認められないお方様が、無性に悲しかった。

「そんなのは嫌です!」
「待て、どこへ行く」

 松永の制止も聞かず、奏は走り出した。
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