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忘れられし花
第19章 花、咲きて
「あれ、光様。もしかして熱が……?」

 奏ははっとして腕を引き抜いた。背に回した手に伝わってきた熱さは、平常のものではない。今はそれほど高いわけではないが、これ以上上がらないよう安静にした方がよさそうだ。

「この程度ならば大丈夫です」
「でも……」

 離れようとする奏の腕を、光は掴んだ。咄嗟のことに驚いた奏は、体勢を崩して光の体の上に勢いよく倒れ込んでしまった。胸への衝撃に、光が軽く咳き込む。

「あっ、すみません、光様! 大丈夫ですか?」

 奏は慌てて光の体の上から下りた。幸い咳は大したことなく、程なくして治まった。

「私は大丈夫です。こちらこそ大変申し訳ないことをいたしました。お怪我はありませんか?」

 気遣いと謝罪の言葉を口にする光は、奏への罪悪感で一杯に見えた。心を痛め自らを責め続けていることがありありと判る光の様子に、奏は胸が締め付けられる思いがした。

 奏は再び光のすぐ傍に寄ると、光の頬に手を触れてから、そっと唇を重ねた。

「奏?」
「僕は多少転んだくらいでは何ともないです。それより下敷きにしてしまった光様のほうが心配です」

 奏は光の手をしっかりと握った。今、光の手を取らなければ、光は今後二度と奏に腕を伸ばすことはないような気がした。自分のせいで他人が傷つくことを何よりも恐れる光。少し転倒するくらいでは自分は何ともないのだと、光に理解してもらう必要があった。

「本当に大丈夫なのですか?」
「嘘だと思うのなら、触って確かめてください」

 光は奏の全身を、白く滑らかな手でまさぐった。優しくもどこかな艶かしい手つきに、奏の体は昂り激しくうずき始める。
 自らの体の思わぬ反応に、奏は苦笑した。
 体は正直だ。

「ね? 僕は大丈夫だと言ったでしょう? 今はそんなに高い熱じゃないですし、大丈夫だって言う光様を信じます」
「はい」

 光はいつものように奏の頭をぽふぽふと叩いた後、ふわりと笑った。
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