この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
忘れられし花
第2章 兄と弟
「兄上は私に残された唯一の肉親です。血の繋がった兄上を、どうして忘れることができましょう。私の方こそ兄上の存在すら知らず、長い間失礼をいたしました。私は何も知りませんでした。祖父が母に何をしていたのか、父が母を殺すまで何も」

 泣き出しそうに見えた馨は、しかし泣かなかった。涙を堪えて必死に歯を食いしばる。
 次期当主とはいえ、まだ十二歳なのだ。
 父親が母親と祖父を殺害し自害した上、祖父の人道に悖る行為まで明らかになり、どんなにか辛いだろう。

 そのとき、お方様の両手が馨の手を優しく包み込んだ。馨は大きく目を見張り、お方様の白く細い両手を見つめた。

「知らなくてよかったのです。どうかこのままお引き取りください。そして二度とここへいらしてはいけません」

 馨は手を引き抜き、逆に兄の両手をぎゅっと握った。手を握っていないと、そのまま儚く消えてしまうような気がした。

「いいえ。何度でも参ります。名乗る名がないのであれば、いくらでも私が差し上げます。ですからどうか私の兄として本館へいらしてください」

 このような人寂しい離れで隠れるようにして暮らさねばならない兄が哀れだった。人手の多い本館ならば、体の弱い兄も手厚い看護が受けられるはずだ。

「それはできません」

 だが馨の言葉をお方様は断った。

「私は不具の身。私のような者が兄と名乗ることは、馨様の恥辱となりましょう。また鷹取家の体面のためにも、今私の存在を明らかにするわけにはまいりません。私のことは、これまで通り捨て置きください」

 馨は沈黙した。
 ただでさえ今は、父と娘の間の情事とその惨憺たる結末に鷹取家が動揺しているのだ。その父と娘の間に二十歳になる子供がいると知られたら、どのような目が兄に向けられるのか、考えたくもなかった。そして、次期当主として、鷹取家を守らねばならないのもまた事実だった。

「兄上は私のたった一人の大事な家族です。断じて恥辱などではありません。ですが、鷹取家の家中が揺れる今、兄上の存在を公にできないのも仰る通りです。たとえ今はできなくとも、いつか必ず兄上を鷹取家の一員として正式に認めさせ、本館にお迎えします。どうかそれまでお待ちください」
「……はい」

 兄は母親に似た顔で、ふわりと微笑んだ。
/113ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ