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忘れられし花
第1章 序
 翌朝は日の出と同時に起こされ、子細について説明を受けた。二人がいるのは、奏でもその名を知る名門、鷹取家の離れだということだった。奏はこの離れの主に仕えることになるらしい。主人に目通りするには時間が早すぎるということで、しばらくは細々(こまごま)とした用事を言い付かって過ごした。

 昼前の少し暖かくなった頃、奏は松永と共に主人の元へ伺候した。人の気配の全くない奥向きは異様なまでに静まり返り、物音一つしない。

「失礼いたします」

 松永は両手で音もなく襖を開けた。

 部屋に入ると高雅な香りが奏の鼻孔をくすぐった。落ち着いた調度の室内は昼間だというのに全ての障子が引かれ、中から外の様子を窺うことはできない。そして障子越しの柔らかな白い光の差す部屋の中央には、布団が敷かれていた。

「新しい使用人を連れて参りました。私とともに傍近くにお仕えいたします」

 松永は静かに布団に歩み寄り、臥せっている主人の体を慎重に起こした。その表情は慈しみと労りに満ちたもので、厳しい顔ばかりでなくこんな顔もできるのだと、奏は非常に驚いた。

 松永に支えられゆっくりと体を起こした主人は、まだ若い青年だった。奏より少し年上、二十歳ぐらいに見える。奏はすぐに青年の目が見えないことに気がついた。青年の両目は、起き上がった後も固く閉ざされたままだったのだ。

 だが青年は今まで奏が見た誰よりも美しかった。

 ぬけるように色白で華奢な体。艶やかな淡い栗色の髪と、綺麗に整った繊細で端正な顔立ち。青年は冬の木漏れ日にさえ溶ける淡雪のような儚げな風情をしていた。ただ座っているだけでも滲み出る気品は隠しようもなく、この家の主筋の青年なのだと、言われなくてもわかった。たとえ瞼が閉ざされていても、静かな気品は少しも損なわれることはない。

 奏は青年の美しさに、声もなく見とれていた。
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