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忘れられし花
第5章 瞳の色
「谷山。あなたの髪と目の色を、教えていただけますか」
寝室にはしばらく沈黙が流れていたが、お方様は奏に意外なことを聞いてきた。
生まれつき目が不自由なお方様は、たとえ詳しく説明されても色を理解することができないはずだ。そう考えた奏は、ただ色の名前だけを答えた。
「髪は黒で、目は焦げ茶です」
「松永も髪は黒で目は焦げ茶だと言っていました。あなたと同じですね」
奏は松永のいかめしい顔を思い浮かべた。
「そうですね。たまに馨様みたいに違う人もいますが、ほとんどの人は黒髪で焦げ茶色の瞳ですから」
黒髪に焦げ茶色の瞳は、この国に住む人間の標準色のようなものだ。
「馨様は違うのですか?」
「はい。馨様は明るい茶色の髪と、同じく明るい茶色の瞳です。兄弟だからでしょう。お方様と髪の色が似ていらっしゃいます」
お方様の髪は馨よりももう少し明るい、淡い栗色をしている。おそらく鷹取家は明るい髪色の一族なのだろう。
「馨様も瞳は茶色なのですか?」
お方様が確認するように、奏に訊ねた。
「そうです。茶色以外の瞳は、僕は今まで見たことがありません」
「……忌み子の私には、普通の瞳すら与えられませんでした」
「お方様?」
奏の見ている前で、お方様は固く閉ざしていた瞼をゆっくりと持ち上げた。
寝室にはしばらく沈黙が流れていたが、お方様は奏に意外なことを聞いてきた。
生まれつき目が不自由なお方様は、たとえ詳しく説明されても色を理解することができないはずだ。そう考えた奏は、ただ色の名前だけを答えた。
「髪は黒で、目は焦げ茶です」
「松永も髪は黒で目は焦げ茶だと言っていました。あなたと同じですね」
奏は松永のいかめしい顔を思い浮かべた。
「そうですね。たまに馨様みたいに違う人もいますが、ほとんどの人は黒髪で焦げ茶色の瞳ですから」
黒髪に焦げ茶色の瞳は、この国に住む人間の標準色のようなものだ。
「馨様は違うのですか?」
「はい。馨様は明るい茶色の髪と、同じく明るい茶色の瞳です。兄弟だからでしょう。お方様と髪の色が似ていらっしゃいます」
お方様の髪は馨よりももう少し明るい、淡い栗色をしている。おそらく鷹取家は明るい髪色の一族なのだろう。
「馨様も瞳は茶色なのですか?」
お方様が確認するように、奏に訊ねた。
「そうです。茶色以外の瞳は、僕は今まで見たことがありません」
「……忌み子の私には、普通の瞳すら与えられませんでした」
「お方様?」
奏の見ている前で、お方様は固く閉ざしていた瞼をゆっくりと持ち上げた。