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忘れられし花
第5章 瞳の色
 現れた瞳の美しさに、奏は思わず息を飲んだ。

 お方様の瞳は澄んだ水色をしていた。盲目であることが信じられない、あまりにも綺麗に透き通った瞳。美しい水色の瞳は、まるで磨き上げられた宝石のようだ。けれどそんな美しい瞳はどこも見てはおらず、見えていないことも明らかだった。

「幼い頃、私の瞳を見た使用人が私を『化け物』と呼び、逃げ出しました。それ以降人前では絶対に目を開けないよう、松永に言われました。元々私の目は光に弱く、強い光の下では長時間目を開けていることができないのです。私は光を感じることすらできないというのに」

 普段部屋の障子を閉め、直接日差しが入らないようにしていたのは、光に弱い瞳を守るためなのだろう。お方様は再び瞼を閉ざし、宝石のような瞳を隠してしまった。

「黙り込んでどうしました? やはり私の瞳の色は気味が悪いのでしょうか……。汚らわしいものをお見せして申し訳ありません……」

 あまりの美しさに息を飲んで固まった奏の様子をお方様は完全に誤解し、悲しげに俯いてしまった。
 奏は慌てて否定した。

「違います! 気味悪くなんかありません! だから汚らわしいなんて言わないでください。逆です! あまりに綺麗で見とれてました。澄んだ泉のような、ものすごく美しい瞳です! ……でも、どうして僕に見せてくださったのですか?」

 人前では絶対に開けないようにと、松永に言われていたのに。お方様が松永との約束を破るのは、非常に珍しいことだ。

「谷山、あなただからです。あなたなら私の瞳を見ても逃げ出したりはしないと思ったのです。きっと松永も、谷山なら見せてもいいとで言うでしょう」

 あなただから。

 お方様はそう言って、隠していた瞳を奏に見せてくれた。目だけでなく、心まで開いてくれたような気がして、奏はとても嬉しかった。
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