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忘れられし花
第6章 心の光
「お願いです、兄上! どうかこれからも兄上の元を訪れることを、お許しください。兄上は私に残された、たった一人の家族なのです。『光』がお気に召さないのであれば、いくらでも名をさしあげます! ですから、どうか……」

 馨はお方様の横で平伏した。
 その姿を見ることができないお方様は、当然気づかない。奏が代わりに馨を起こすしかなかった。

「当主様ともあろうお方が平伏なんかしてはダメです。僕がお方様に怒られます」

 奏が馨の体を起こそうとすると、ものすごい目で睨まれた。

「怒られればいい」
「あー、馨様ひどいです」

 だがこの拗ねたような言い方は、どことなくお方様と似ている気がする。やはり二人は血の繋がった兄弟だった。

「……馨様」

 お方様は根負けしたように馨の名を呼んだ。

「私のような者に身に余る名をいただき、ありがとうございます。名を持つことができるなど、まるで夢のようです」
「いいえ。二十年もの間、名もなきまま兄上を放置した鷹取家を、どうかお許しください」
「お方様……じゃない、光様!」
「はい」
 
 お方様はまるで本物の光のように微笑んだ。
 たとえ目が見えなくとも、お方様には心に差す光があった。

 こうしてお方様は、「名乗る名を持たぬ者」から「鷹取光」になったのだった。
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