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忘れられし花
第7章 願い
「こちらが松永の墓になります」

 四人はようやく、敷地の片隅にある使用人の共同墓地にたどり着いた。
 鷹取家の使用人のうち、遺体を引き取る身寄りのない者は皆、この共同墓地に葬られることになるらしい。松永もここで永い眠りについている。

「ご案内ありがとうございました」

 光は井上に礼を言い、深く頭を下げた。
 そして白く華奢な手を合わせ、墓に向かって頭を垂れた。
 光はまるで人形になったみたいに、長い時間そのまま動かなかった。

「松永は私に、亡くなる間際まで尽くしてくれました。こうして手を合わせ祈ることを教えてくれたのも、松永です。ですが私は何一つ、松永の労苦に報いることができませんでした。私は……」

 光は俯いたままだった。その表情は薄布に隠れて窺うことができない。

「私は松永に、馨様にいただいた私の名を呼んで欲しかった……。もっと生きて、私の傍に……」

 その時風が吹き、薄布をめくり上げた。
 光は儚げに、どこまでも透明に微笑んでいた。

「松永さんは全部わかっています。だから大丈夫です」

 奏でさえ倒れてしまいそうな酷暑の中、無理を押してまで来た光の心を、松永は誰よりも理解してくれるはずだ。松永は、光の一番の理解者だった。

 墓参りを終えた光は本館へ戻る馨と別れ、離れに戻った。これだけの距離を光を抱えたまま歩くのは、奏には無理だったろう。車椅子は非常に便利な乗り物だった。
 
 被っていた薄布を取り光の様子を見ると、強い太陽の光でやはり目を痛めてしまったのか、両目のあたりが異常な熱を帯びていた。奏は光を風通しのよい涼しい部屋に寝かせ、冷たい水で濡らした布を閉ざされた両目の上にそっと置いた。

「ありがとうございます」

 光はとても辛そうだった。

「いえ。光様がお元気でないと、松永さんがあちらで心配します。ですからゆっくりと休んでまた元気になってください」

「はい。……谷山」

 光は不安げに奏を呼んだ。

「手を握ってください。……怖いのです」
「わかりました。大丈夫です。僕はずっとここにいます」

 包み込んだ光の手は、微かに震えていた。
 幼い子供のように何かに怯える光の手を、奏はこの日ずっと握っていたのだった。
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