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忘れられし花
第8章 悪夢の再来
 そいつは何食わぬ顔で、光のいる離れにやってきた。

 所用で本館に出向いた奏があとをつけられていたのだと、後に執事の井上から聞かされた。
 本館から離れに戻った奏は一旦光の様子を確認した後、再び腰を上げた。

「すみません、光様。すぐに戻りますから」

 引き手に手をかけようとした目の前で、襖が勝手に開いた。
 もちろん、襖がひとりでに開くわけがない。

 襖の向こうには、抜き身の刀をぶら下げた老人が立っていた。
 ニヤリと笑った老人の顔は、何とも気味の悪いものだった。

「……誰かっ!」

 奏は大声で叫んだつもりだったが、手で口を塞がれ、あっという間に床に引き倒された。老人の割にすごい力だった。

 老人は奏に猿ぐつわをかまし、手足を厳重に縛った。
 まさか強盗だろうか?
 それにしては随分と年を取っている。
 しかもこんな離れに、なぜ?

「谷山! どうしました?」

 物音で何かただらぬ事態が起こったことを感じ取った光が、奏の名を呼んだ。だが猿ぐつわをされているため、返事をしたくてもできなかった。

「……こんなところに隠しておったとは。兄上らしいのう」

 老人は鈍い銀色に輝く刀を手にしたまま、ゆっくりと光に近づいた。

「誰です!」

 光は侵入者に、鋭く誰何した。

「そういえば目が見えぬのであったか。不憫なことよ。くくく。まあその生まれでは仕方があるまい? 儂は鷹取元久。前当主克久の弟だ」
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