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忘れられし花
第1章 序
「あの方は一体どなたなんですか?」
松永は青年を「お方様」と呼び、名前を一度も口にしていない。だがその呼び方から察するに、鷹取家一族の青年であることは間違いない。
「お方様はこの家の当主直系にあたられる。だが訳あってご自分の名前をお持ちではない。それゆえ皆『お方様』とお呼びしているのだ。お前も『お方様』とお呼びするように」
「名前がない……?」
奏は主人であるお方様の、気品ある繊細な美貌を思い返した。鷹取家当主直系でありながら名前がないというのは、一体どういうことなのだろうか。
「そうだ。お方様の抱えるご事情はお前もそのうち知ることになるだろう。お方様は普段はとてもお優しい方なのだ。あそこまで激しく拒絶されるとは思わなかった。許してくれ」
「僕は気にしてませんから大丈夫です。でもどうして若いとダメなんですか?」
廊下を元来た方へ歩きながら、謝罪する松永に奏は疑問をぶつけた。普通は年寄りよりも、体力のある若い使用人の方が好まれるからだ。
「若い者を雇わないのは、お方様がお優しい方だからだ。私はお方様の苦しむ顔はもう見たくない。男娼だったお前ならきっと……」
「それってどういう意味ですか?」
だが、松永はそれっきり口をつぐんだ。
奏が松永の言葉の意味を理解したのは、数日後の夜のことだった。
松永は青年を「お方様」と呼び、名前を一度も口にしていない。だがその呼び方から察するに、鷹取家一族の青年であることは間違いない。
「お方様はこの家の当主直系にあたられる。だが訳あってご自分の名前をお持ちではない。それゆえ皆『お方様』とお呼びしているのだ。お前も『お方様』とお呼びするように」
「名前がない……?」
奏は主人であるお方様の、気品ある繊細な美貌を思い返した。鷹取家当主直系でありながら名前がないというのは、一体どういうことなのだろうか。
「そうだ。お方様の抱えるご事情はお前もそのうち知ることになるだろう。お方様は普段はとてもお優しい方なのだ。あそこまで激しく拒絶されるとは思わなかった。許してくれ」
「僕は気にしてませんから大丈夫です。でもどうして若いとダメなんですか?」
廊下を元来た方へ歩きながら、謝罪する松永に奏は疑問をぶつけた。普通は年寄りよりも、体力のある若い使用人の方が好まれるからだ。
「若い者を雇わないのは、お方様がお優しい方だからだ。私はお方様の苦しむ顔はもう見たくない。男娼だったお前ならきっと……」
「それってどういう意味ですか?」
だが、松永はそれっきり口をつぐんだ。
奏が松永の言葉の意味を理解したのは、数日後の夜のことだった。