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忘れられし花
第10章 贈り物
 馨は奏を連れ、懇意にしている骨董品店に向かった。

「馨様、こんなところに僕を連れてきてどうするんですか」
「どうもこうもない。兄上への贈り物を選ぶ。兄上の好みを教えろ」

 もうじきクリスマスの季節になる。馨はこの店に光へのクリスマスの贈り物を選びに来たのだった。馨はまだ光の好みを知らないため、光をよく知る世話係の奏を連れてきたという訳だ。

「クリスマス?」

 奏は不思議そうに馨の言葉をなぞった。鷹取のような家ではともかく、クリスマスはまだ一般にはあまり普及していない習慣だということを、馨は失念していた。

「西洋の風習だ。家族で食事を共にし、贈り物をし合う」
「そうなんですか。初めて聞きました。でも僕にも光様の好みはわかりません」
「何だと?」
「だって、僕が買われたのは馨様が光様に会うほんの少し前ですよ? しかも光様はあまり好き嫌いを口に出しません」
「それではお前をここに連れてきた意味がないではないか」

 馨が口に出して言うと、奏はふくれた。

「勝手に人を引っ張り出しておいて、勝手に文句を言わないでください。僕は光様の傍にいたかったのに」

 だが、そうすると困ったことになった。光の喜びそうな品物が、馨には見当もつかない。仕方なく一人で店内を物色するうち、精緻な彫刻の施された小箱が目に止まった。

「さすが鷹取様。お目が高い。オルゴールをお選びになるとは」
「オルゴール?」
「お開けになればわかりますよ」

 馨は店主の勧めるまま、小箱の蓋を開けた。すると澄んだ金属音が美しい曲を奏でた。

「蓋を開けると、音が鳴る仕掛けになっております」
「これを貰おう」

 音の出る箱ならば、目の不自由な光も喜んでくれるに違いない。

 同じく店内をうろついていた奏は、小さなうさぎの置物を選んでいた。

「店主。その置物も一緒に支払いをしてくれ」
「馨様?」
「一応私の供をした礼だ。これくらいでは私の懐は痛まないから気にするな」
「ありがとうございます」

 奏は素直に礼を言った。
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