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忘れられし花
第10章 贈り物
店主がオルゴールと置物を包んでいる間、馨は奏に訊ねた。
「谷山はあのオルゴールの曲を知っているか?」
「いいえ。西洋の曲なんですよね? 僕が知っているわけないじゃないですか。馨様はご存知なんですか?」
だが馨の返答は、答えになっていなかった。
「……谷山。兄上は、過酷な運命から自由になりたいとお望みだろうか」
忌み子として鷹取家には存在を否定され、不自由で虚弱な体は普通に生活することすらできない。光は自らを縛り付ける全ての物から解放されたいと、心の底では望んでいるのではないだろうか。
「そんなの当たり前じゃないですか! でも、馨様には光様の体を治すこともできませんし、光様を鷹取家から自由になんて絶対にしないんでしょう? 出来もしないことを言わないでください!」
奏の激しい剣幕に気圧されるように、馨は沈黙した。沈黙せざるを得なかったのだ。
馨はしばらく沈黙したのち、ようやく言葉を絞り出す。
「確かに、私には兄上を治すことも自由にすることもできない。今の質問は忘れろ。だが、全ては兄上のためだ!」
全ては光を守るため。
忌み子である光の存在が表沙汰にならないよう、存在を隠し通す。それが光を守る最善の方法であると、馨は信じていた。
「違います。光様のためじゃなくて、鷹取家のためでしょう? 光様は自分がいない方が鷹取家のためだって、自分は存在してはならない人間だって、二十年間ずっと思い続けてきたんです。僕はそんな光様を傍で支えたい。いつか光様が、自分は生きていていいんだと思えるときが来るように」
「それなら私は、どうすれば……」
そのとき、店主が二つの包みを抱えて戻ってきた。
「お待たせしました、鷹取様」
「……失礼する」
帰路につく馬車の中で、馨は自問自答を繰り返していた。
どうすれば光を守れるのか。
どうすれば光が幸せに暮らせるのか。
そのために自分はどうするべきなのか。
いくら考えても答えは出なかった。
「谷山はあのオルゴールの曲を知っているか?」
「いいえ。西洋の曲なんですよね? 僕が知っているわけないじゃないですか。馨様はご存知なんですか?」
だが馨の返答は、答えになっていなかった。
「……谷山。兄上は、過酷な運命から自由になりたいとお望みだろうか」
忌み子として鷹取家には存在を否定され、不自由で虚弱な体は普通に生活することすらできない。光は自らを縛り付ける全ての物から解放されたいと、心の底では望んでいるのではないだろうか。
「そんなの当たり前じゃないですか! でも、馨様には光様の体を治すこともできませんし、光様を鷹取家から自由になんて絶対にしないんでしょう? 出来もしないことを言わないでください!」
奏の激しい剣幕に気圧されるように、馨は沈黙した。沈黙せざるを得なかったのだ。
馨はしばらく沈黙したのち、ようやく言葉を絞り出す。
「確かに、私には兄上を治すことも自由にすることもできない。今の質問は忘れろ。だが、全ては兄上のためだ!」
全ては光を守るため。
忌み子である光の存在が表沙汰にならないよう、存在を隠し通す。それが光を守る最善の方法であると、馨は信じていた。
「違います。光様のためじゃなくて、鷹取家のためでしょう? 光様は自分がいない方が鷹取家のためだって、自分は存在してはならない人間だって、二十年間ずっと思い続けてきたんです。僕はそんな光様を傍で支えたい。いつか光様が、自分は生きていていいんだと思えるときが来るように」
「それなら私は、どうすれば……」
そのとき、店主が二つの包みを抱えて戻ってきた。
「お待たせしました、鷹取様」
「……失礼する」
帰路につく馬車の中で、馨は自問自答を繰り返していた。
どうすれば光を守れるのか。
どうすれば光が幸せに暮らせるのか。
そのために自分はどうするべきなのか。
いくら考えても答えは出なかった。