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忘れられし花
第10章 贈り物
 そして十二月二十四日。クリスマス前日の今日のことは「クリスマスイブ」と呼ぶそうだ。

 光は今夜、馨と晩餐を共にする予定になっていた。光の体調を考えた場合午餐の方がいいのだが、夜でないと馨の都合がつかないらしい。馨が誰もいないと思われている離れにおおっぴらにやってくるわけにもいかないため、色々と調整が大変なのだろう。

 予定の時間より大幅に遅れて、馨が離れに到着した。雪の中、傘も差さずにやって来た馨の肩にはうっすらと白い雪が積もっていた。

「遅いです、馨様」

 奏は離れの入口に立ち馨を待ち構えていた。馨が扉をくぐると早速食ってかかる。

「こんなに遅くなるなら、連絡ぐらい入れてください」
「すまない。兄上はどうされている?」
「眠っています。夕方からずっと待っていたのに、馨様が遅すぎて疲れたみたいです」
「……そうか」

 奏は馨を奥部屋に案内すると、眠ってしまった光をそっと揺すり起こした。光の顔色はいつも以上に白く本当に疲れている様子で、馨の心は申し訳なさで一杯になった。

「遅くなりまして大変申し訳ありません、兄上。あまりご無理をなさってはいけません」
「私は大丈夫です。馨様こそお忙しい中、わざわざいらしていただいてありがとうございます。……外は寒いのでしょう? お手が冷たくなっています」

 光は馨の手を、そっと自らの両手で包んで暖めた。白い顔に透けるような微笑みを浮かべる。

「いけません、兄上の手まで冷えてしまいます。今日は別室にテーブルをしつらえてありますので、そちらで一緒に食事をしましょう」

 朝、馨に貸した和室は井上が色々運び入れて、完全な洋室に様変わりしていた。
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