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忘れられし花
第10章 贈り物
 奏が部屋を出ていくと、光は馨の背に腕を伸ばし、優しく抱き締めた。そして耳元で小さく囁いた。

「今年のクリスマスは、馨様にはお辛いでしょう……。馨様はお強いのですね。ですが辛い時には泣いてもいいのです。馨様はもっと私に甘えてください。このような不具の身ではありますが、私は兄として、馨様のお役に立ちたいのです」
「兄上……っ!」

 馨が無理に明るく振る舞っていたことに、光は気づいていた。
 去年まで馨は、両親と共に幸せに満ちた暖かなクリスマスを過ごしてきた。

 だがその両親はもういない。

 光との晩餐で、両親と過ごしたクリスマスを馨が思い出さないはずがなかった。

「……っ!」

 馨は光の胸に顔を埋め、声を殺して泣いた。泣いていることを使用人に悟られる訳にはいかない。それがせめてもの馨の意地だった。
 光は奏が戻ってくるまで馨の背中を優しくさすり続けた。

 そして奏が膝掛けを手にして部屋に戻ると、三人は元の奥部屋へ戻った。
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